アダルトチルドレンとは
アダルトチルドレン(AC)とは、子どもの頃に、家庭内で受けたトラウマによって傷つき、大人になってからも生きづらさを抱えて生活している人のことです。アダルトチルドレンは、医学的な診断名ではなく、元々は「アルコール依存症の親の元で育てられた子ども(ACoA)」という意味で用いられていましたが、次第に解釈が広義的になり、現在では、親による肉体的・精神的虐待や、親の過干渉などの家庭環境の問題によって、トラウマを抱えたまま大人になった人のことを指すようになりました。
アダルトチルドレンとHSP
HSPの気質がある上に、親子関係があまり良くなかった経験がある場合は、HSPの裏にアダルトチルドレンが隠れている場合があります。HSPとアダルトチルドレンの違いは以下の表の通りです。
アダルトチルドレン | 後天的(幼少期より徐々に形成) | 不健全な家庭環境やトラウマが原因 家庭環境が原因となりうるが、必ずしも親が原因であるわけではない |
---|---|---|
HSP | 先天的 | 生まれつき持っている性格の気質 |
アダルトチルドレンは、幼少期からの不健全な家庭環境が原因となるのに対し、HSPは生まれつきの強い感受性を持つ気質を指します。中には、アダルトチルドレンとHSPを併せ持つこともあるため、判別が困難な場合があります。アダルトチルドレンとHSPには、「人の顔色をうかがう」「他者との親密な関係を築くのが困難」などの共通点が見られます。
アダルトチルドレンと発達障害
アダルトチルドレンと発達障害の違いは、アダルトチルドレンは子ども時代の家庭環境が原因となっているのに対して、発達障害は生まれつきのものであることです。アダルトチルドレンは家庭環境が原因となるため、正しい知識を学んだり、適切な支援を受けることで生きづらさを改善することができます。一方、発達障害は、生まれつきのものであるため、治療は困難です。
アダルトチルドレンの原因
アダルトチルドレンの主な原因は以下の5つです。
1. 虐待やネグレクトを受けて育った
アダルトチルドレンの代表的な原因の1つとして、家庭内での虐待やネグレクトが挙げられます。虐待には、殴る、蹴る、強く揺さぶる、投げ落とすなどの身体的虐待や、罵声を浴びせる、無視する、暴力行為を見せるなどの心理的虐待、性的暴行、ポルノを見せる、ポルノグラフィの被写体にされるなどの性的虐待などがあります。また、ネグレクトも虐待の1つで、学校に行かせない、必要な教育を受けさせないなどの教育ネグレクトや、生活費を渡さない、子どもから金銭を搾取するなどの経済ネグレクトのほか、家に閉じ込める、食事を与えない、医療を受けさせないなどのネグレクトがあります。虐待が日常的に行われている環境にいる子どもは、虐待から逃れるために自分を抑え込んだり、無理していい子を演じて大人を怒らせないような振る舞いをします。こうした抑圧は、社会に出てから様々な問題に繋がる可能性が高く、人間関係をうまく築けなくなることにも繋がります。
2. 機能不全家族のもとで育った
機能不全家族とは、人格を尊重しながらお互いを支え合うといった、家族が本来持っている機能やシステムが失われている家族のことを言います。機能不全家族のもとで育つと、アダルトチルドレンになることがあります。機能不全家族は、生活困窮者やアルコール依存症患者のように、必ずしも外から見て問題があるように見えるわけではありません。親による子どもへの無関心、過干渉、共依存、役割放棄や条件付きの愛情、子どもを褒めない、認めないなど、子どもが日常的にストレスを感じながら生活しなくてはならない状況である家族は、すべて機能不全家族と言えます。
3. 親がアルコール依存症である
アダルトチルドレンの原因の1つとして、親のアルコール依存症が挙げられます。アルコール依存症になると、家族への配慮が出来なくなるため、機能不全家族に陥りやすく、また、親が子どもにアルコールを買いに行かせたり、アルコールが切れると親が子どもに暴力を振るうといった行為は、子どもの心身に大きな影響を与えます。
4. 毒親に育てられた
親が毒親であることはアダルトチルドレンの原因の1つです。「毒親」とは、毒と比喩されるような悪影響を子どもに及ぼす親のことで、主に子どもの行動に対して常に口出しをしたり、子どもに過剰なプレッシャーを与える、子どもの幸せを邪魔するなどの行為を行います。毒親に育てられると、子どもは思考力や判断力が奪われることが多く、成長して社会に出たときに仕事や人間関係に様々なトラブルを抱える傾向があります。また、毒親に育てられた子どもは、自分の子どもにも同じような振る舞いをしてしまうことがあります。
5. 子どもの特性に理解がない親の不適切な養育
親が子どもの特性を理解しないことによって、不適切な養育が行われると、アダルトチルドレンになってしまう可能性があります。子どもはそれぞれの性格に加えて、成長や発達の速度も様々であるため、子どもの特性に応じた適切な養育を行う必要があります。中には極端に内向的であったり、発達障害を抱えている場合もあります。こうした子どもの特性を理解しないまま養育を行おうとすると、育児に大きなストレスを抱えてしまい、子どもをいつも叱りつけてしまったり、ときには手を挙げてしまうなどの行為が起こることがあります。これらは、場合によっては虐待となり、子どもの心身の成長に悪影響を与えます。
アダルトチルドレンの特徴
アダルトチルドレンの大きな特徴として、「自尊心が低い」というのが挙げられます。子どもが自己肯定感を高く保ち、自尊心を育むには、成長過程で、ありのままの自分を受け入れてくれる環境が必要です。しかし、親に何かしらの問題があり、親による条件付きの愛情しか受けられなかったり、虐待を受けていたりすると、自尊心を持つのが難しく、「自分は価値がない人間だ」という思い込みが強くなってしまいます。自己肯定感や自尊心が低い人は、周囲の期待に過剰に応えようとしたり、嫌なことを断れないなどの、自分の考えや感情を抑え込むような生き方をする傾向があり、なかには「なぜ自分はいつもこうなんだ」という自責から、「周りが悪い」のような他責になり攻撃的な性格になってしまう場合もあります。
自尊心の低さから人に依存しがち
アダルトチルドレンは、人に依存しやすいという特徴があります。自尊心が低い人は、周囲の人に必要とされることや周囲の人に愛されることで、自分の価値や存在意義を測ろうとします。そのため、相手に好かれるために無理をしたり、相手の言いなりになったりと、人に依存した生活をしてしまう傾向が多いです。また、相手と共依存になることも多く、お互いに極度に依存しあってしまい、自立できなくなってしまうこともあります。
精神疾患などの二次障害にかかりやすい
アダルトチルドレンは、精神疾患などの二次障害にかかりやすいという特徴があります。アダルトチルドレン自体は、病気ではありませんが、アダルトチルドレンの特徴の自己肯定感の低さや、コミュニケーションの取りづらさ、社会生活への適応の困難などは様々な精神疾患に関係するとされています。
- うつ病
- アルコール依存症
- 不安障害
- 適応障害
- 摂食障害
- PTSD(心的外傷後ストレス障害)
アダルトチルドレンは、嗜癖行動(しへき行動)を起こしやすいとされています。嗜癖行動とは、頭では自分にとって身体的・精神的・社会的に不都合であるとわかっているのにも関わらず辞めることができない行動のことです。嗜癖行動は、病的ギャンブルやゲーム、窃盗癖、買い物、暴力、自傷、性的逸脱行為、過食・嘔吐、放火など様々なものがあります。
アダルトチルドレンの6つのタイプ
アダルトチルドレンは特徴に応じて、「ヒーロー」「スケープゴート」「ロスト・ワン」「ケアテイカー」「ピエロ」「イネイブラー」の6つのタイプに分類されます。それぞれの特徴は以下の通りです。
1. 親の期待の応えようと無理をするヒーロー(英雄)
ヒーローとは、親の期待に応えようと無理をするアダルトチルドレンのタイプで、勉強や運動、習い事などで、親から良い評価を得ることを最優先に行動します。外から見ると、頑張り屋さんの子、一生懸命で真面目な子という風に捉えられがちで、問題があるように見えませんが、ヒーロータイプは自分のためでなく、親の期待に応えたい、親に叱られたくないといった動機で頑張っているため、思うような結果が得られなくなると、急に心が折れてしまう傾向があります。
2. 家族の不満や鬱憤を引き受けるスケープゴート(いけにえ)
スケープゴートとは、家族の不満や鬱憤を引き受けるアダルトチルドレンのタイプで、敢えて悪い行動をすることで、「この子さえいなければうまくいくはずだった」という幻想を抱かせ、家族の破綻を防ごうとします。家族の怒りや不満、鬱憤をすべて1人で受けるために、徘徊や暴力などの問題行動を起こしたり、勉強を放棄して極端に悪い成績をとったりします。
3. 家族との関係から離れて目立たず生きるロスト・ワン(いない子)
ロスト・ワンとは、家族との関係を断つように家族内での存在感を消して、元々生まれてこなかった子どもとして振る舞うアダルトチルドレンのタイプです。いない子として生きることで、家族から傷つけられないようにします。ロスト・ワンは存在感が薄く目立った特徴がないため、自身がアダルトチルドレンであることを自覚しにくい傾向があります。ロスト・ワンの多くはネグレクトや過干渉が原因となって起こるとされています。
4. ケアテイカー(世話役)
ケアテイカーとは、世話役で、家族の世話を献身的に行うアダルトチルドレンのタイプです。ケアテイカーは自分を犠牲にして家族を支えることで、家族の機能を維持し崩壊を防ぎます。例えば、親の代わりに家事をすべて行ったり、兄弟の面倒を見るなど、自分のことを後回しにしてでも、家族の世話を行ってしまいます。また、ケアテイカーとしての役割に自分の存在価値を見出します。そのため、献身的な世話の見返りに褒めてもらうことや、感謝されることを求めがちで、世話役という役回り自体に依存している場合もあります。ケアテイカータイプのアダルトチルドレンは、社会に出た後も周囲の人に行き過ぎた世話をしてしまうことが多く、それが理由となり、人間関係のトラブルが起こることが多いです。
5. 家族の顔色をうかがいながら「道化」を演じるピエロ(道化師・クラウン)
ピエロとは、機能不全家族の険悪なムードを和らげるために、冗談を言ったり、おどけたりなどひょうきんに振る舞うアダルトチルドレンのタイプです。ピエロはその役割から、マスコットとも呼ばれています。ピエロは、一見明るくひょうきんな性格に見えますが、役割を演じているだけであるため、常に人の顔色をうかがいながら生活しています。また、自分が不機嫌であったり、落ち込んだりしているところは決して見せません。場合によっては、体調が悪いことまでも隠し通して明るく演じることもあります。
6. 過剰な献身で相手の問題行動を助長するイネイブラー(慰め役)
イネイブラーとは、相手の嗜癖や問題行動を助長する方向性で、自己犠牲を含む過剰な健診を注ぐアダルトチルドレンのタイプです。例えば、アルコール依存症の親にお酒を用意するなどの行為が挙げられます。イネイブラーは人を世話することによって、自分自身の問題から目を背けようとします。機能不全家族においては、長男がヒーローやスケープゴート、長女がイネイブラーとして一家の世話役をしている場合もあります。
アダルトチルドレンの治療
アダルトチルドレンは病気ではないため、それ自体の治療法はありませんが、アダルトチルドレンによって二次的に起こる精神疾患や障害に対して、薬物療法や心理療法を行うことはあります。また、アダルトチルドレンの当事者会やグループミーティングなどへの参加も、生きづらさの改善に繋がることがあります。
薬物療法
アダルトチルドレンによって、うつ状態や落ち込み、不安の症状がある場合は、程度や状況に応じて抗うつ剤や抗不安薬などを用います。また、患者様それぞれの状態に応じて、漢方薬を用いた治療を行うこともあります。
心理療法
心理療法では、不安を和らげ、生きづらさの改善を図ります。アダルトチルドレンは、どのタイプであれ、家族の形を優先して自分を犠牲にしてきた人々です。子どもの頃から当たり前にやってきた生き方に対して、過去の苦しみを認めたり当時を振り返ることは大きな不安を伴い、それを治療していくのは自分の生き方そのものを否定しているように感じるかもしれませんが、医師やカウンセラーとともに一緒に改善していきましょう。
当事者会・グループミーティングへの参加
アダルトチルドレンの当事者会やグループミーティングに参加することで、自分の気持ちがわかったり、周りの人の意見を聞くことで、アダルトチルドレンについての理解を深めることができます。また、当事者会は、当事者同士でアダルトチルドレンの体験や思いを共有するもので、それに対する批評や感想などを言う時間は設けられていません。自分の思いをその場で受け入れてもらえるのが強みです。当院では、当事者会などの開催をしていませんが、必要に応じてご紹介することも可能です。